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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)79号 判決 1987年5月25日

本籍及び住居

東京都国立市中一丁目六番地の一〇号

医師

山下文雄

大正一三年一二月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都青梅市富岡三丁目一二五四番地において、「東京青梅病院」の名称で病院を開設して医業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五六年分の実際所得金額が一億一九四六万一四二二円で、純損失の繰越控除額が三一四五万三五一八円あった(別紙一の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五七年三月一一日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が六三七七万八三〇二円で純損失の繰越控除額が四五九八万一七九七円であるので、これに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると三三八五万八〇四六円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六二年押第二七一号の1)を提出し、そのまま法定の納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一〇五五万一九〇〇円と右還付申告税額との合計四四四〇万九九〇〇円(別紙二の(1)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年分の実際総所得金額が六三六〇万三二三一円あった(別紙一の(2)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五八年三月一四日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が一〇一五万五二七一円でこれに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると、三八二六万三九一〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の還付税額七一一万〇五一七円と右還付申告税額との差額三一一五万三三〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年分の実際総所得金額が一億〇八八六万〇九二八円あった(別紙一の(3)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が五九四七万三〇一八円でこれに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると、一二一七万九八七六円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定の納付期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三六九万九六〇〇円と右還付申告税額との合計三五八七万九四〇〇円(別紙二の(3)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  山下博、小串安正、山下節子の検察官に対する供述調書各一通

一  収税官吏作成の次の各調査書

(1)  収入金額調査書

(2)  募集費調査書

(3)  給料賃金調査書

(4)  利子割引料調査書

(5)  貸倒引当金繰戻額調査書

(6)  貸倒引当金繰入額調査書

(7)  退職給与引当金繰入額調査書

(8)  価格変動準備金繰入額調査書

(9)  価格変動準備金繰戻額調査書

(10)  退職給与引当金取崩額調査書

(11)  青色申告控除額調査書

(12)  利子所得調査書

(13)  繰越欠損金控除額調査書

(14)  源泉徴収税額調査書

(15)  事業主勘定調査書

一  大蔵事務官作成の昭和六〇年三月八日付証明書

判示第一の事実につき

一  押収してある昭和五六年分所得税確定申告書一袋(昭和六二年押第二七一号の1)、同56年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

判示第二の事実につき

一  押収してある昭和五七年分所得税確定申告書一袋(同押号の2)、同57年分所得税青色決算書一袋(同押号の5)

判示第三の事実につき

一  押収してある昭和五八年分所得税確定申告書一袋(同押号の3)、同58年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条第一項に該当するところ、情状により罰金につき同条二項を適用したうえ懲役と罰金とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内において、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金二八〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、東京都青梅市において、病院を開設して医業を営んでいる被告人が、病院のいわゆる雑口収入を除外し所得の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿し、よって三年間にわたり合計一億一一四〇万円余りの所得税を脱税した事案であって、その逋脱金額はかなり多額であるうえ、その犯行の手段・態様も巧妙かつ計画的であって犯情は芳しくなく、この種事案の罪質をも併せ考えると被告人の刑責を軽視することは許されない。しかしながら、その犯行の動機は被告人個人の私欲を追求するためというよりは、自己の健康状態が思わしくないことから病院の将来を考え、その経営維持のためとの面があったと窺われる点で酌むべきところがないではなく、本件逋脱所得の性質、被告人が本件の非を反省し、脱税の結果についても修正申告のうえ、本税・附帯税のすべてを完納して改悛の情を示していること、本件で国税局の査察を受けた後は経理の方法を改善し、また、事業の法人化を目指し、看護婦の養成に向け資金援助を続けていること、被告人の経歴、年齢、健康状態等被告人にとって有利な、又は同情すべき事情も認められる。

以上のような本件の動機、態様、結果、罪質、被告人の身上等を総合勘案し、被告人に対しては、主文掲記の懲役及び罰金に処し、懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当であると認められる。

(求刑懲役一年及び罰金三五〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中野久利)

別紙一の(1)

修正損益計算書

No.1

山下文雄

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

修正損益計算書

No.2

山下文雄

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙一の(2)

修正損益計算書

No.1

山下文雄

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

修正損益計算書

No.2

山下文雄

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別紙一の(3)

修正損益計算書

No.1

山下文雄

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

修正損益計算書

No.2

山下文雄

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

<省略>

別紙二の(1)

脱税額計算書

56年分

<省略>

別紙二の(2)

脱税額計算書

57年分

<省略>

別紙二の(3)

脱税額計算書

58年分

<省略>

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